

UPチャーリー《04》
【女の子】
「うん、知ってる。帽子から 鳩を出す人のことだよね」
期待を込めたまなざしを向けられ、チャーリーさんはちょっと 気取って頭を下げた。
【チャーリー】
「今日はあいにく、 鳩はお出かけ中でね。その代わり……」
彼がくるりと手を回すと、 きれいな赤いバラの花が現れた。
【女の子】 女の子の頭を撫でながら、チャーリーさんはバラを彼女の手のひらにのせた。
それからそのバラを軽く握らせて、自らの手をかぶせる。
藤田五郎《04》
【芽衣】
「……!」
私は小さく息を呑んだ。
藤田さんが、着物を腰まで下ろし、
手ぬぐいで汗を拭っていたところ
だったからだ。
【芽衣】
(うわわわわわわ)
程よく筋肉がついた、肩から胸もとにかけてのライン。
無駄な肉なんて一切ついていない、均整の取れたきれいな身体。
汗で濡れた肌についた髪は、ほのかな色気まで感じられた。
小泉八雲《04》
【主人公】
「いつか……もしも私が蛍になって会いに来たら、八雲さんは気づいてくれるでしょうか?」
何気なく浮かんだ問いを投げかける。
もしも私が、八雲さんよりも先にこの世を去ったとして。
ひとめ会いたいと願うあまり、蛍の姿にかたちを変えて現れたとしたら──。
【八雲】
「もちろん、私は貴女がどんな姿かたちでも気づくでしょう。目に見えるもので判別するのではなく、魂が惹き合うと思うからです。」
そう囁く八雲さんの瞳は、あたりを群舞する光よりも綺麗だ。
青と緑が綾なす宝石みたいに。
川上音二郎《04》
【音二郎】
「おまえ、やっぱり俺を男として意識してねえから、こんな無防備な姿を晒すんじゃねえのか?」
【主人公】
「……っ、あ、あのっ」
【音二郎】
「どうだ、俺と鏡花ちゃん、どっちが男に見える? はっきり答えてみろよ」
少しずつ近づいてくる顔。
甘い吐息が鼻の頭に落ち、男の顔をした音二郎さんが、妖しく私の唇を見つめる。
泉 鏡花《04》
ふいに、手が伸びてくる。
一瞬のためらいのあと、 鏡花さんの指が、そっと私の髪に触れた。
【主人公】
「……っ……」
その指は、 もてあそぶように私の髪に絡んでいる。
頬には直接触れていないのに、
その手のぬくもりはしっかりと私に 伝わっていた。
こうやって、鏡花さんのほうから 私に触れてくるなんて初めてかもしれない。
手を掴まれたりすることはあったけど、 あれはたまたまというか、今のような意図的な行動ではなかった。
【鏡花】
「へえ……。 ちゃんと触れるんだ」
森 鴎外《04》
【鴎外】
「春草には、どこまで近づかれたのかな」
【主人公】
「ど、どこまでって」
【鴎外】
「このぐらい?」
唇が触れそうな距離まで顔を近づけられ、私は身体を強張らせた。
【鴎外】
「いや、もっと近かっただろうか」
さらに近く。
唇の隙間から零れる鴎外さんの吐息が、 私の唇にかかる。
鴎外さんの熱が触れた肌から入り込み、 私の身体までをも熱くする。
菱田春草《04》
【春草】
「こうやって、力ずくで抱き寄せられたら……
どうするつもり?」
【主人公】
「!」
【春草】
「どうすることもできないだろ。
君なんか隙だらけで、たいした力もない」
【春草】
「されるがままになるしか……」
チャーリー《03》
もう1度唇を重ねて、甘く息が混ざる。
深く呼吸をするたびに、幸せなのに、 涙が出そうになる。
【チャーリー】
「こうしてずっと、抱きしめていたいよ……」
何度も、何度でも 甘く重なり、溶けていく唇。
私の腕から力が抜け、いつしかすべてを委ねるようにもたれかかっていた。
藤田五郎《03》
【藤田】
「おまえが寒さをしのがないのなら、俺がしのいでやるよりほかはない」
【藤田】
「……どうだ。
こうして抱いてやると、暖かいか」
藤田さんの胸はたくましく、熱くて、夜風に冷えた私の身体を芯からあたためてくれる。
ほのかなお酒の香り。
頭の中がふわふわと気持ちよくて、このまますべてを藤田さんに預けてしまいたくなる。
小泉八雲《03》
首から耳朶へ、小さくキスが降る。
手首をぎゅっと掴まれ、動けなくなったところで改めて深く口づけされた。
【主人公】
「~~~ッ」
【八雲】
「おや、貴女には少しばかり刺激が強すぎたでしょうか?」
【八雲】
「……ですが、しかたありませんよね、
こういったキスにも慣れていただきませんと」
川上音二郎《03》
【主人公】
「あ……の……っ」
【音二郎】
「ほーら、逃げときゃよかっただろ?」
【主人公】
「な……っ」
【音二郎】
「ま、もう遅いけどな……」
【音二郎】
「……力抜けって」
もう1度耳に優しくキスされて、ますます緊張で力が入る。
そんな私の背中を、音二郎さんはゆっくりと撫でた。
泉 鏡花《03》
【鏡花】
「ねえ、どうしてくれるんだよ。1度知ったら、もっと知りたくなる。1度触ったら、もっと……」
額に、頬に、顎に、 その唇が触れる。
【鏡花】
「……ん……」
【主人公】
「……っ」 そして、私の唇に。
落とされる口づけは、甘い刻印のよう。
【鏡花】
「このままだと、もっとたくさん…… あんたに触れるよ?」
【鏡花】
「あんたがここから逃げ出さない限り…
僕はあんたに触れ続けるから」
【鏡花】
「それでもいいの? ねえ……」
森 鴎外《03》
【主人公】
「鴎外さ……」
手首を掴まれ、布団に押しつけられる。
【鴎外】
「……はは。
まったく、いつまでたっても隙だらけなのだなあ。おまえという娘は」
【鴎外】
「そんなふうだから、こんなに容易につけこまれてしまう」
菱田春草《03》
【春草】
「ひどい顔」
【主人公】
「なっ……」
春草さんはいつもどおり冷ややかに、ふんと鼻で笑う。
【春草】
「……そんな顔もかわいいけど」
【主人公】
「っ……?」
私の唇を、春草さんの唇が軽くかすめる。
驚きのあまり声を出せないでいると、春草さんは私のおでこにおでこをくっつけてきた。
【春草】
「どうして、そんなに熱いの」
【主人公】
「だって……」
触れ合う手と手。からむ吐息。
ドキドキしすぎて、まともに春草さんの目を見ることができない。
チャーリー《02》
【主人公】
「チャーリーさん……?」
夜が遠のき、朝が近づくにつれて、重なった手から温もりが失われるのはどうしてなのか。
光が射したそばから、彼の肩や、腕や、顔が、薄く存在を欠いていく。
まるで夢から醒める直前みたいな、光の透過する景色。
その中心にチャーリーさんがいた。今にも消え入りそうな笑顔で。
【チャーリー】
「ごめんね。ずっと一緒にいてあげられなくて」
藤田五郎《02》
【主人公】
「ご、ごごご、ごめんなさい……!あの、お怪我はっ」
【藤田】
「俺のことなどどうでもいい。おまえはどうなんだ」
そのため息が、私の耳へとわずかに届く。
【主人公】
「な、なんともないです、藤田さんのおかげで」
【藤田】
「……そうか」
いつも以上に声が近くて、こんな状況なのに胸が高鳴る。
背中に密着する、藤田さんの広い胸。
温かい息づかい。
早く立ち上がらなきゃいけないのに動けない。
小泉八雲《02》
磨き込まれたフロアの上で廻る景色。
ターンするごとにシャンデリアから光の粒が弾け、シャワーのように身体中に降り注ぐ。
【主人公】
「ちょ、ちょっと待ってください、 足がうまく……」
【八雲】
「ふふ、大丈夫ですよ。 ……そう、右足、左足、くるっと回って……そうです!」
きらきらとした華やかな雰囲気の中、優美な弦楽器の音色に乗せられて、おぼつかないステップもなめらかになる。
【八雲】
「ふふ、なかなか上手ではありませんか。とても初めてとは思えないほど筋がいい」
川上音二郎《02》
【音二郎】
『……恋しい人と分かれているときは、
うたを唄えば紛れるものかえ』
それくらい音二郎さんは美しく、私が見た白雪さんそのものだった。
【主人公】
(まさかまた、白雪さんがのりうつっちゃったんじゃ……)
舞台を観ている間はずっとひやひやしていた私だけど。
──舞台が終わったら、音二郎さんはちゃんと音二郎さんに
戻っていてくれた。
泉 鏡花《02》
【音二郎】
「早くそこをどかないと、素っ裸にして外に放っちまうけどいいのか~い?」
【主人公】
「だ、だめですよそんなことしたらっ!」
【音二郎】
「……おや、なんだいこの子。 寝てるじゃないか」
【主人公】
(えっ)
音二郎さんは蹴りを入れていた足を止め、 鏡花さんの顔を覗き込んだ。
【鏡花】
「すー……すー……」
森 鴎外《02》
頭の中が真っ白になった。
私は今、なぜか鴎外さんに抱きしめられている。
その事実を脳が認識するまで、10秒ぐらいはかかったんじゃないかと思う。
【鴎外】
「まったく、心配をかけさせて!」
【鴎外】
「おまえの身にもしものことがあったら、僕はこの先どうやって生きていけばいいと言うのかいっ?」
菱田春草《02》
【主人公】
(ん?)
誰かが私の腕をつかんでいた。
誰かといっても、ここには春草さんしかいないのだけど。
【主人公】【春草】
「え……」
春草さん自身も自分の行動に驚いているようだった。
【主人公】
「あの、私、鴎外さんに呼ばれているので……」
【春草】
「わ、わかってる、そんなこと」
と言いながらも、春草さんは手を放してくれない。
チャーリー《01》
【チャーリー】
「やあやあ、無事だったようだね。お嬢さん」
【主人公】
「あ!」
燕尾服に片眼鏡。
糸のように細い目。
そこにいたのは、お祭り会場でマジックを
披露していた例の奇術師だった。
藤田五郎《01》
【主人公】
「藤田さん、あれはなんですか?」
【藤田】
「……陸軍士官学校だ」
【主人公】
「あの神社は?」
【藤田】
「市谷亀岡八幡宮」
【主人公】
「あのお店は」
【藤田】
「おい。観光に来ているんじゃない」
【主人公】
「え、じゃあ……なにをしに来たんですか?」
【藤田】
「ただの巡回だ」
小泉八雲《01》
【主人公】
「八雲さ……」
ドアを開けると、
私の部屋とほぼ同じつくりの室内が
目に入ってくる。
テーブルには積み重ねられた本の山、
そしてかすかに漂う煙草の匂い。
そして部屋の中央には──。
【主人公】
(ん?)
男の人がいた。
髪の濡れた、線の細い和装姿の男の人だ。
西洋的な顔立ちだけど、
目を伏せた角度によっては
東洋人っぽくも見えたりして。
なんともオリエンタルな、
不思議な雰囲気を漂わせている。
【主人公】
「…………」
綺麗な顔をしてる人だなあと、
ついつい見とれた。
川上 音二郎《01》
泉 鏡花《01》
森 鴎外《01》
菱田春草《01》
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