……雨が降ってきたな
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グッモーニン! 藤田サン!
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っ! 何者だ!
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おやおや、サーベルなど抜いて物騒ですねえ。貴方の親友である小泉八雲がこうして訪ねてきたというのに
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誰が親友だ。人の家の庭に無断で入ってくるなと何度言わせれば気が済む
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おや、そこの縁側で干しているのは青梅ですか?
もしや梅干しでも仕込むおつもりで? |
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人の話を聞け!
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ああ、どうぞおかまいなく。お茶は自分で淹れますので。……ええと、たしか急須と湯飲みはこの茶箪笥に……(ガサゴソ)
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待てっ、貴様なぜ急須と湯飲みの場所を知っている!
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そしてこの引き出しの中に……、オウ! やはりありました! 豆大福です!
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豆大福だと? そんなもの、買った覚えがないぞ! なぜそこに入っている……!?
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まあ細かいことはいいではありませんか。それより藤田サン、このあたりに『雨降り小僧』が出るとの噂を聞いたのですが、ご存じありませんか?
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……雨降り小僧?
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ええ。雨の日しか遭遇できないと噂の、実にレアな物の怪サンなのですよ!
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知らん
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ほう? 警視庁妖邏課の藤田五郎警部補ともあろうお方が、雨降り小僧をご存じでない、と?
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雑魚を相手にしているほど暇ではないものでな
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ふふっ……嘘があまりお上手ではないようですねえ、藤田サンは
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なに?
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私の目をあざむこうとしても無駄です! 貴方、この家のどこかに雨降り小僧を隠しているのでしょう!
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なっ……、なにを馬鹿なことを言っている! なぜ俺が、自分の家に物の怪など隠さなくてはならない?
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理由など明白でしょう! 雨降り小僧がチャーミングな物の怪だからです!
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?? ちゃー……みんぐ……?
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イエス! 雨降り小僧は笠をかぶった姿が非常にラブリーだとちまたで大評判なのです!
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藤田サンはとても狡猾なポリスメンですから、そんな愛らしい物の怪サンを独り占めしたいと思ったに違いありません! ええ、そうですとも!
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ば、馬鹿な。意味がわからんぞ
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こうしてはいられませんっ! 藤田サンの魔の手からいたいけな物の怪サンを救い出さなければ!(ガタッ)
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おい! 勝手に家の中をうろうろするな!
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物の怪サーン! どこにいるんですーっ!? 貴方の八雲が助けに参りましたよーっ!
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うろうろするなと言っているだろう! ……おいっ、押し入れを開けるなっ。せっかく畳んだ布団を乱すんじゃない! 聞いているのか、おいっ……!
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電撃Girl'sStyle2013年7月号 掲載
おや鏡花ちゃん。今日はいい天気だねえ。
あんたも散歩中かい? |
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鏡花ちゃんって呼ぶな! ……ところであんた、なんで雑草なんか持ってるんだよ
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雑草じゃなくて菖蒲だよ! 今日は端午の節句だろ? 菖蒲湯に入ろうかと思ってね
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……ふふっ。鏡花ちゃんも一緒に入るかい? アタシが背中を流してあげるよ?
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う、うわあああああ! よせえええ! やめろおおお! バイ菌がうつるううう!
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おいコラァ、いい度胸してるじゃねえか! こちとら天下の人気芸者だっつうの!
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なーにが人気芸者だ! どこの世界にヒゲを生やした女がいるって言うんだよ!
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うるせえ! そういうクソ生意気な口きくガキにはなァ、この柏餅わけてやらねえぞ
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えっ。柏餅?
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ははっ、目の色変えやがったな。おまえ甘いモンが大好物だったもんなァ
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べ、別に大好物ってわけじゃない。でもくれるって言うならもらってやってもいいけど?
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相変わらず可愛くねえガキだぜ……。ま、しょうがねえからひとつやるよ。ほら
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へ、へえ……なかなか悪くない柏餅じゃないか。形といい香りといい、まあ合格かな
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ああそうかよ。やっぱ端午の節句といえば柏餅……っておまえ、何やってんだ!?
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は? 見ればわかるだろ? アルコールランプの火で柏餅を殺菌消毒するんだよ!
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誰が作ったかもわからない柏餅なんて、バイ菌だらけだろうからね。よく炙らないと……
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って馬鹿! こんな道端でいきなり焼き始めんな! 嫌な予感しかしねえ!
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しかたないだろ! バイ菌をやっつけないと腹をこわすかもしれな……あちちちち!
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ほら、燃えてるっ! 柏餅がボーボー燃えてるからっっ!
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わああああ髪に火が燃え移ったあああ! 熱い熱い熱い熱い!
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だから言わんこっちゃねえ! いいか、こっち来んなよ? 俺の着物は高ぇんだからな!?
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たたたた助けてええええぇ~~~!
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こっち来るなっつってんだろ! 来るんじゃねえええ! うわあああああぁっ……!
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電撃Girl'sStyle2013年6月号 掲載
春草、見てごらん。桜が満開だ。実に素晴らしい咲きっぷりではないか |
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ええ。上野公園は花見の名所だけあって、この時期は毎年大混雑ですね |
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では僕らも、ここらで花見団子でも食べながら桜を愛でることにしよう |
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そうしましょう。それじゃ、いただきま…… |
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ちょっと待ちたまえ! まだ調理が済んでいない |
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調理? ……でも花見団子だし、別に調理する必要はないんじゃないかと |
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必要はある! さあ、ここに用意した白飯に団子を乗せ、上から煎茶をかけたまえ |
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ま、まさかそれは…… |
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うむ。僕の大好物である饅頭茶漬けを応用した、団子茶漬けを作るのだ! |
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だ、団子茶漬け……? |
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いかにも。花見にぴったりの、季節感溢れる茶漬けだろう? 目にも鮮やかな一品だ |
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俺、用事を思い出したので帰ります |
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こらこら、どこに行くんだい。よもや僕の手料理が食べられないとでも? |
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食べられません |
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ははっ、それはよかった。では熱いうちに召し上がれ! |
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いま食べられないって言いましたよね! あいにくですが満腹なんです |
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まあそう言わず、よく見てみなさい。実にうまそうだろう? |
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煎茶に浸かって緑色にふやけた団子が、まるで溺死したガマガエルの腹のようだ |
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すごくまずそうですけど……!? |
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おや、顔色が悪いようだね |
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そんな得体の知れない食べ物を見ていたら気分も悪くなります |
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身体も小刻みに震えている。……ああこれはいけない、典型的な栄養失調の症状だ! |
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違います、ただ嫌がってるだけでしょう、どう見ても! |
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僕はおまえのことが心配なのだよ。いますぐに栄養を摂取させなければ(がしっ) |
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や、やめてくださいっ、何を……! |
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さあ遠慮せずに食べたまえ、僕のありがたい手料理を! |
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うわあああぁっ、誰かああぁ……!! |
電撃Girl'sStyle2013年5月号 掲載